受託開発者のデザインメモ

現在学んでいる UX デザイン・サービスデザインについての振り返りや、自主的な調査活動について書いています。

自主調査 - アーティスト・イベント - TIF 2017

 

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背景

UX デザインの講座では、手法を教わる際に「習った手法は 100 回練習しろ」言われます。
デプスインタビューについては、知り合いなどに協力して貰って何度か実施してきましたが、エスノグラフィについてはワークそのものや、結果についての評価の難しさからあまりやって来なかったので、機会を見つけて練習することにしました。

 

練習であるため、何か大きな目的を持っているわけではないですが、大雑把に言って「閉鎖集団の中に入って社会システム(常識)を発見する」のがエスノグラフィのため、「都内で行われる何かしらのイベント」を継続的に観察するフィールドとして選ぶことにします。
ジャンルを選ばなければ時期によらず色々な種類のイベントが行われており、カメラを向けるのも不自然でないので行動しやすいだろうとの考えです。
(余談ですが、練習を続ける決意のためにデジタル一眼を購入しました。どちらかと言えば形から入る主義です。ちなみに、初回のフィールドは撮影禁止でした。。。)
 
 

調査概要

初回の観察対象に選んだのは TIF (Tokyo Idle Festival) 2017。
毎年夏にお台場で行われるアイドルイベントで、多くのアイドルグループとそのファンが集まるイベントです。
 
今年は 08/04 (金), 05 (土), 06 (日) の 3 日間行われ、
・出演アイドル
 総勢 233 組・1,475 名
・来場者数
 8/4 (金) 21,338 名
 8/5 (土) 32,787 名(TIF史上最高動員)
 8/6 (日) 27,253 名
 3 日間合計 81,378 名(過去最高)
と、かなり大規模なイベントになっています。
 
一般の音楽イベントよりアーティスト・ファンともにかなり特徴的であり、調査対象として選ぶと洞察が得られ易い特徴的なユーザ(=エクストリームユーザ)であるもと思われるため、観察しがいがあると思って対象に選びました。
 
ちなみに、筆者も「私立恵比寿中学」というアイドルグループのファンで、ファンクラブに入会して 2 年ほど経ちます。
そのため、観察対象については、ある程度予備知識を持っている状態です。
 
 

調査計画

今回は特に事前のデスクトップリサーチなどはせず、直接現地に行って観察を試みました。
しかし、何も目的を立てないと観察対象がはっきりしないため、以下のような目的を立てました。

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目的:「新しい種類のイベントを検討するため、ユーザニーズを調査する」
- ファンが何に 興味を持ち、支持するようになるか
- どのようなイベントに参加したいと思うか
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特定の種類のアーティスト (J-pop, アイドル、演歌歌手)やイベント(ライブ、コンサート、フェス)だけに制限すると現状の改善にしかならず、また継続的な練習も困難になってしまう、調査のレイヤー(抽象度)は「イベント全般」としました。
 
 
今回は最終日の 08/06 (日) を観察日に選びました。
ステージは複数あって、同時進行で次々ライブが進んでいきます。
 タイムテーブル: http://www.idolfes.com/2017/timetable/
それぞれのステージを 15 分~1 時間程度見て、次のステージへと移っていきました。
 

調査実施

調査中は、時間・場所ごとに気になったユーザを観察し、それを手帳にメモしていきました。

ステージやアイドルの撮影は禁止のため、写真はありません。

メモした内容は、後日「KA 法」という手法で分析・可視化しました。
 
KA カードというカードにそれぞれ以下の内容を記載していきます。
 
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・1. 出来事:観察やインタビューから得た行動データ

・2. 心の声:1. で描いた出来事の状況を想像し、「ユーザの心の声」を一言で表現する

・3. 価値:1. と 2. を手掛かりにして、ユーザの価値を抽出する

 
 
以下では時間・場所の情報と共に、カードの内容を記載します。
 
[11:00 船の博物館]
会場に到着
 
[11:15 ①HOT STAGE HOT - SUMMER スタジアム] 
一番広いメインステージ。
しばしばテレビで流される映像もこのステージのライブのことが多く、比較的知名度の人気のアイドルだけが立てるステージです。
 

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[11:45 ②HEAT STAGE - Zepp DiverCity]
大型のライブハウス
こちらも比較的大きめのライブハウスで、上記のステージの次に来るくらい注目されるステージです。
 

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[12:00 フードコート]
会場内にある施設で、イベントに関わらず常時用意されている場所です。
 

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[12:10 ⑩GREETING AREA - 青梅第二臨時駐車場]
グッズの販売や、握手会などを行うスペースです。
 

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[13:45 ④DOLL FACTORY ― フジテレビ湾岸スタジオ M2]
フジテレビ湾岸スタジオ内の屋内ステージ
こちらもライブハウスです。

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[14:45 ③SMILE GARDEN ― フジテレビ湾岸スタジオ 横 公園]
野外ステージ
1 つ目のステージよりは小さいですが、芝生でフェス間のあるステージです。

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[15:00 ⑤SKY STAGE ― フジテレビ湾岸スタジオ 屋上]
建物の屋上でかなり高いところにあるステージです。
景色もかなりいいです。

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[16:00 ④DOLL FACTORY ― フジテレビ湾岸スタジオ M2]
私立恵比寿中学の妹分「桜エビ~ず」を見るついでに、再度訪問。

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[17:00 セントラル広場]
ステージを移動する際に良く通る、会場全体のほぼ中心位置の広場です。
 

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[17:20 ⑥FESTIVAL STAGE ― ダイバーシティ東京 プラザ2Fフェスティバル広場 ]
ダイバーシティ東京プラザに隣接するフリーステージ。
比較的狭いですが、通りがかりに目を止めるお客さんが多い場所です。
 

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分析

観察後、観察中にメモした行動データを元に、以上の様に KA カードを作成しました。
 
次に、KA カードに書かれた価値に着目し、ユーザ行為の全体像を把握するため「価値マップ」を作成します。
KA カードの価値の欄を見て、類似している「価値」を KJ 法でグルーピングします。
さらに、グルーピングした価値をまとめ、中分類を作成します。
 
通常は KA カード(と該当する写真)をプリントアウトし、それらを手で動かしながら行いますが、今回は自分だけのワークのため、全て Excel 上で行いました。
 
最終的にできた全体像は以下になります。

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全体としては、「一体感を求めること」と、「観覧するアイドルを選択できること」が価値としてでました。
TIF というイベントの性質上、妥当な価値だと思われますが、目新しい価値でもありませんでした。
 
 
各グループでの価値は以下になります。

・祭りの雰囲気を味わう

 

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この 2 つのカードは一見対照的に見えますが、それぞれイベントの雰囲気を楽しんでいるように見えます。
その表れが動的か静的かはユーザによって異なるため、それぞれケアできることが望ましいでしょう。
 
・好きなものの共有

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イベントは主目的である「アイドルを見る事」とは別に「ファン同士が集まる機会」にもなっています。そして、それは好きなことを自分の中だけでなく「他人と共有したい」という気持ちの表れでもあると捉えました。
ファン同士の交流を促す施策があると、新しい体験が提供できるかもしれません。
 
 
・一体感を楽しむ

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会場では必ずしも「アイドルが歌って踊り、ファンが応援する」という関係ではなく、運営者(プロデューサー・マネージャー)とファンの間のコミュニケーションや、ファンがアイドルの演奏に積極的に関与する(ファンが歌う・踊る)ような行動がみられます。
そのため、アイドルとファンの他に「MC」や「DJ」的な振る舞いをする人、が入ると、新しい体験になるかもしれません。

 

 
・複数アーティストの観覧

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多くのアイドルが出演するのが TIF の特徴ですが、そのため「観覧するアイドルの選択」が一つの価値になっていると思われます。
例えば、アイドルにも多様性(色んなコンセプトのアイドルがいること)があるので、アイドル同士が競争するイベント(歌や踊りだけでなく、ゲームなどでも良い)や、逆にアイドル同士で何かを作り上げる(これも歌や踊りだけでなく、演劇・作品作りなどもある)をすることで、ファンが複数のアイドルを楽しめるかもしれません。
 
 
・距離感選択の自由

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これも対照的なカードですが、ファンによって楽しみ方の距離が異なるというものです。
とにかく近づいてアイドルに認知されたいファンと、
遠くからでも良いので肉眼で見ていたいファン。
 残念ながら後者のやや控えめなファンについては、行動に表れにくいので、インタビューなどで深掘りしないと価値観が見えてこないですが、アイドルとの距離感を変えられる、ということが何か提供できる体験のバリエーションに繋がるかも知れません。
 
 
・アーティストの応援

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一見、上記で述べた「ファン・アイドル・運営の一体感」についての価値ですが、もう少し突っ込んで「ファンが積極的にアイドルの歌・踊りに関わりたい」という価値があるかもしれません。
 
 

考察

今回は観察期間が 1 日だけのため、他のイベントとの共通点という視点では何かを見出すことは出来ませんでした。

今後、近しいイベントを見た時に再度振り返りたいと思います。

 

また、今回のテーマである「アイドル」については、少なからず自分で当たり前だと思い込んだ部分があり、記述に上げなかった行動がありました。
例えば、応援の仕方として様々なコールや振りがありますが、それらの違いをあまり考慮していませんでした。

自分が知っている(と思っている)ものの調査では、どうしてもバイアスがかかるものなので、今後の調査では気を付けたいです。

 

まとめ

個人的には、アイドル同士での作品作りや、ファンが曲を作り上げるというのは、何か面白いかもと思いましたが如何でしょう。
 
イベント運営者、アイドルのマネージャーなど、関係者の方からのコメントお待ちしています。